ここでは,母音/a/の声道形状を例にとり,声道長を変えた場合の音響的な影響を示します。下記の図は,声道長をそれぞれ16.9cm,13.1cmとしたときの,声道形状と声道の伝達特性を示しています。右側の13.1cmの長さの声道形状は,母音合成システムにおいて,16.9cmの長さのものから,ウィンドウ下部の声道長調整用スライダを用いて短く設定したものです。
図の下部の伝達特性の比較から分かるように,声道が短くなると共振周波数のピークは右側に移動し,周波数が高くなることを示しています。
声帯緊張パラメータQを一定値として,それぞれ長さの声道長に対し合成音声を計算したものが,下記の(A)と(B)です。声帯緊張パラメータQが一定なのでブザー音のような音にはなりますが,(A)と(B)を比較することで,声道長を短くすることにより声の高さが高く感じられると思います。男性よりも女性の方が声が高く感じられる主要因は,女性の方が声帯振動の基本周波数が高いことによりますが,声道長が短くなることで共振周波数が高くなることもその要因の一つです。
次の(C),(D)は,男性の実音声から抽出した基本周波数から求めた声帯緊張パラメータQを用いて合成を行なったものです。基本周波数の揺らぎのためより自然な音声となります。また,(D)では,声帯緊張パラメータQは同じで,声道長が短くなっていますので,ちょうど,声帯は男性だが声道は女性のような設定となります。
(E),(F)は,女性の実音声から抽出した基本周波数から求めた声帯緊張パラメータQを用いて合成を行なったものです。(E)では,声帯は女性だが声道は男性のような設定となり,少し違和感のある音声となります。(F)のようになると,比較的に女性的な音声になります。