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研究課題RESEARCH & DEVELOPMENT

私たちが取り組んでいる研究を大きく分けると次の3つです。

  • ・基礎バイオエレクトリクス(パルスパワーの生体作用,生体応答,培養細胞を用いた実験)
  • ・応用バイオエレクトリクス(殺菌,微生物の機能活性化,医療応用,細胞への物質導入)
  • ・放電、プラズマ,静電気応用(パルスパワー放電,大気圧プラズマ,流動帯電,静電噴霧)

以下で各研究課題の概略を説明します。

基礎バイオエレクトリクス

  • 強電界パルスを用いた細胞膜の物質透過性制御に関する研究

    強電界パルスによる人工細胞(GUV)の変形と膜破壊
    電界(10 kV/cm, 10 us)は水平方向

    細胞に強電界パルスを印加すると、細胞膜に小孔(ポア)が生じ(エレクトロポレーション)、基質とともに細胞内外の物質の出入りが起こります。この現象は、遺伝子,たんぱく質や薬剤等を細胞内に導入する技術に利用されています。しかし,ポアの形成過程,様態,物質の流入メカニズムについてはきちんと解明されていません。私たちはこのメカニズムを解明し,メカニズムに基づいて細胞へのダメージを抑えながら効率のよく物質導入することを目指しています。そのために,人工平面膜や人工細胞(ベシクル,右図)を用いて、強電界パルスで生じるポアの性質や物質の膜を通した物質の挙動を調べています。

    出典:
    ・G. Urabe, M. Shimada, T. Ogata, S. Katsuki: "Pulsed Electric Fields Promote Liposome Buddings", Bioelectricity, 3(1) 68-76 (Mar. 2021) doi.org/10.1089/bioe.2020.0016 (Published Online:20 Jan. 2021)
    ・T. Ogata, G. Urabe, S. Katsuki: "Resting Membrane Potentials Promote Calcium Influx following Electropermeabilization", submitted to Bioelectrochemistry on Feb. 22, 2021

  • 強電界パルスによって惹起されるイオン輸送

    パルス印加後100 ms以内に起こるHeLa細胞内Ca輸送。現象はパルス条件に強く依存する。緑:Caイオン,青:核,赤:小胞体。

    強電界パルスは,誘電物質の集合体である細胞に対して瞬間的な強い力として作用し,生体の構造や環境を可逆的または不可逆的に変化させます。その結果として多様な生体応答が誘導されます。この作用はパルス条件に強く依存します。右図は、強電界パルスを動物細胞に印加した際、直後に細胞内で見られるCaイオンの動態です。(a)はパルス印加30 ms後のCaイオン分布,(b)(c)(d)における紫および赤色はそれぞれ核および小胞体を示し,緑色はCaイオン濃度の増加分を表します。通常,細胞内のCaイオン濃度は低く維持されていますが,パルス印加直後に急激に増加します。濃度増加の動態はパルス条件に依存し,10 µs幅のパルスでは膜を通した細胞外からの流入,20 ns幅のパルスでは小胞体からの放出,500 ns幅ではその両方が起こります。細胞内Caイオン濃度の変化は多様な生体反応のトリガー信号としてはたらくことから,私たちはパルスを用いて特定の細胞応答を能動的に誘導することを試みています。

    出典:
    ・N. Ohnishi, Y. Fujiwara, T. Kamezaki, S. Katsuki: "Variation of intracellular Ca2+ mobilizations initiated by nanosecond and microsecond electrical pulses in HeLa cells", IEEE Trans. Biomedical Engineering 66(8) 2259-2268 (Aug. 2019) doi.org/10.1109/TBME.2018.2886602
    ・T. Ogata, G. Urabe, S. Katsuki: "Resting Membrane Potentials Promote Calcium Influx following Electropermeabilization", submitted to Bioelectrochemistry on Feb. 22 2021

  • 強電界パルスのたんぱく質への影響

    強電界パルス(250 kV/cm)を印加したタンパク質(ウレアーゼ)の電気泳動パターン(SDS-PAGE,非還元処理)。 パルス印加数が多いほどタンパク質の高次構造への影響が大きくなります。

    強電界パルスは生体細胞に物理的に作用し,その結果として多様な二次的応答が惹起されます。 物理作用として細胞膜穿孔(エレクトロポレーション)が知られ,これにより細胞内外の物質流動が起こります。 一方,タンパク質への物理作用もあるはずですが,現時点でこれを明示する研究報告はありません。 私たちは,強電界パルスがタンパク質に与える影響を,タンパク質溶液を用いて調べています。 右図は,PBSに溶かしたUrease(分子量480 kDa,6量体)に250 kV/cm・5 nsのパルスを印加したときの電気泳動(SDSPAGE)パターンです。3つの温度条件でSDS処理しました。90 kDa付近がサブユニット,上方にあるのが多量体のバンドです。強電界パルスの印加数が増えるほどサブユニットのバンドが下に流れています。 また,低温でSDS処理したサンブルでは多量体のバンドが見えますが,やはりパルス数が多いほど下に流れています。すなわち,パルスの物理作用はUreaseの四次構造と三次構造に影響を与えると言えます。生体内では多様なタンパク質が多様なはたらきをしていますので,強電界パルスはある種の生体応答を選択的に誘導する方法として利用できるかもしれません。

    出典:
    ・G. Urabe, T. Katagiri, S. Katsuki: "Intense Pulsed Electric Fields Denature Urease Proteins", Bioelectricity 2(1) 33-39 (Mar. 2020) doi.org/10.1089/bioe.2019.0021 (published Online Oct. 2019)
    ・G. Urabe, T. Sato, G. Nakamura, Y. Kobashigawa, H. Morioka, S. Katsuki: "1.2 MV/cm Pulsed Electric Fields Promote Transthyretin Aggregate Degradation", Scientific Reports 10(1) 10:12003 (Dec. 2020) doi.org/10.1038/s41598-020-68681-0 (Published Online Jul. 2020)

  • ナノ秒強電界パルスによる細胞死誘導とパルス幅依存性

    本研究で用いた120 nsパルスと5 nsパルスの波形

    120 nsと5 nsのパルス幅と電界強度が異なる2つのパルス(右図)に対し,細胞死に関わる細胞応答とタンパク質への影響を調べ,これらの生体作用を考察しています。120 nsパルスによる細胞死は,Ca2+に依存するシグナル伝達を介するプログラム死(アポトーシスまたはネクローシス)が主要です。 一方,5 nsパルスで誘導される細胞死はCa2+に依存するもののDNA断片化を伴いません。一部のタンパク質(ASK1, Bax)の発現はCa2+の存在に依存しません。 ASK1などある種のタンパク質は時間とともに発現が増幅されます。5 nsパルスの強電界はタンパク質の構造に影響を及ぼすことが別の実験でわかっており,5 nsパルスが細胞内のシグナル伝達を司るタンパク質の機能を傷害している可能性があります。 本研究は,細胞死にかかわるプロセスやタンパク質発現がパルス幅に強く依存することを示しました。 このことは逆に,パルス波形を適当に選ぶことによって特定の細胞内タンパク質や小器官を刺激できる可能性も示唆します。

    出典:
    ・安達隆太, 勝木淳, 他: 電気学会基礎・材料・共通部門誌 137(6) 320-327, 2017, doi.org/10.1541/ieejfms.137.320
    ・R. Andachi, et al: "Cell Death induced by Nanosecond Pulsed Electric Fields and its Dependence on Pulse Duration", Electronics and Communications in Japan 101(3) 38-48, 2018, doi.org/10.1002/ecj.12032

  • パルスパワーに曝露したバクテリアの物性評価

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    準備中。*******************
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応用バイオエレクトリクス

  • 強電界パルスを用いた導電性液体の低温殺菌

    温熱処理またはパルス電界処理単独では殺菌力が弱いですが,併用によって劇的に殺菌効果が高まります。

    食品製造の殺菌は従来から加熱法が広く使われています。加熱法は均一に加熱できれば、温度と時間の制御のみで信頼性の高い殺菌ができるという メリットがあります。一方で、牛乳や卵などのタンパク質を主成分とする食品の場合、熱によって品質劣化が生じます。そのため、加熱法と同等以上 に安全でかつ非加熱もしくはタンパク質が変性しない55℃以下の温度で殺菌する技術が強く求められてきました。本グループでは、強電界パルスと タンパク質に影響の少ない55℃以下の温熱を組合せた殺菌を研究しています。これまでに、組合せによる相乗効果で加熱法と同等の殺菌力(7桁殺菌) を達成しました。現在は産業応用に向けた効率改善に取り組んでおり、電界と温熱の作用を明確にすることで大幅に効率を改善し、産業応用実現まで あと一歩というところまで迫っています。

    資料:熊本テックプランター, 2017.07.21

    出典:
    ・T. Kajiwara, S. Katsuki, et al.: IEEE Trans. Dielectr. Electr. Insulat. 22(4), 1849-1855 (2015) doi.org/10.1109/TDEI.2015.005041
    ・馬場一馬, 梶原大河, 他: 電気学会 基礎・材料・共通部門誌 137(11) 668-673 (2017) doi.org/10.1541/ieejfms.137.668
    ・K. Baba, T. Kajiwara, S. watanabe, S. Katsuki, R. Sasahara, K. Iniue: "Low-Temperature Pasteurization of Liquid Whole Egg using Intense Pulsed Electric Fields", Electronics and Communications in Japan 101(2) 87-94 (2018) doi.org/10.1002/ecj.12053
    ・宮ア大貴, 豊満陽稀, 片野景一郎, 主計俊哉, 勝木淳: "高電界パルス殺菌におけるパルス波形に関する考察", 静電気学会誌 44(1) 8-13 (Jan. 2020)
    ・中村剛丸, 大石諒, 貫寛隆, 勝木淳, 増田直也, 清水喜治: "牛乳のパルス電界殺菌における脂肪球の影響", 電気学会基礎・材料・共通部門誌 141(10) 597-603 (Oct. 2021)

  • 強電界パルスを用いた細胞膜傷害と食品プロセスへの応用

    強電界パルスを細胞に印加すると、細胞膜への電界集中によって細胞膜が損傷します。その後に膜を介した物質流動が生じます。

    細胞膜は、リン脂質が集まって並んだ厚さ5−20ナノメートルの誘電体膜であり、基本的にイオンを通しません。導電性液体中で細胞膜に強い 電界をかけると、膜の表裏に正負の電荷が蓄積し、膜に1MV/cmを超える強電界が生じます。この強電界は膜を傷害し、結果的に膜を貫通する物質 流動が起こります。この作用は細胞の集まりである個体内でも起こります。この現象は動物や植物由来の細胞膜を有する食材の加工に様々な形で 利用可能です。しかも、強電界パルスは大きな熱の発生を伴いませんので、熱に弱い食材に対して大きなメリットがあります。私たちは、 細胞内成分の抽出をはじめ、食材内の成分分布制御など、様々な食品プロセスに応用するために、強電界パルスを細胞に印加した際の膜の状態 や物質流動などを調べ、目的とする食品加工に最適なプロセスを追求しています。

  • 強電界パルスを用いた微生物内成分の非破壊抽出

    PEF法と自己消化を組み合わせた処理によって酵母から抽出した成分の電気泳動(左:Native-PAGE,右:SDS-PAGE)

    強電界パルス(PEF)による細胞膜の物質透過性亢進を利用して、微生物内の有用物質を非破壊で細胞外に取り出します。酵母からのタンパク質抽出 には強固な細胞壁を破壊する必要があります。産業的に用いられる大量の酵母エキスの抽出法として,熱水法,加水分解法,自己消化法があり ます.これらは、熱的、化学的、生化学的なプロセスですが、これらの過程で抽出物質はアミノ酸レベルに分解されます.物理法としてビーズ ミリング法がありますが、処理に手間がかかり、研究用途としては使われていますが、産業用には不向きです。本研究は、PEF法単独、あるいは他の 方法と組み合わせて、細胞内の物質を非破壊で取り出す技術の確立を目指しています。右図は、PEF法と自己消化を組み合わせた処理によって酵母から 抽出した成分の電気泳動です。PEF単独、または、自己消化単独(24h)処理では成分がほとんど検出されませんが、PEFと自己消化(24h) を組み合わせると、ビーズミリング法で得られる100 kDaを超える大きい分子がたくさん検出されます。分子の構造および機能の分析が必要ですが、 微生物内の分子を非破壊で取り出す方法として利用可能です。自己消化によって目的タンパク質はゆっくりと分解されますので、PEF法と他の物理法と の組み合わせ処理も模索しています。

    出典:
    ・岡本修治, 村上鷹児, 卜部玄, 勝木淳: "高電界パルス誘導自己消化による酵母内分子の非破壊抽出", 電気学会基礎・材料・共通部門誌 141(11) (Nov. 2021)

  • PEF処理の大流量化のための要素研究

    166 HzでPEFを繰返し印加中の電極間を1 m/sで流れる流体のシュリーレンおよび干渉像

    - PEF印加中の流体の流れと温度分布 -

    強電界パルス液体殺菌の実用化のためには、処理の高速・大流量化が不可欠です。ラボ実験では殺菌できていても、高速処理で同じ殺菌効果が 得られない、あるいは電極表面が汚損する、といった現象が生じます。そこには、流体的な挙動の違いがあります。私達は、流速の違いで生じる 熱流体現象を調べ、殺菌効果との関連性を明らかにしようとしています。そのために、PEFを繰返して印加する電極間を流れる流体の流れの様子と 温度分布をリアルタイムで可視化するシステムを構築しました。右図は、平均流速1 m/sで流れる粘性流体のシュリーレン像と干渉像で、条件に よって層流または乱流になること、および、電極表面近傍で局所加熱することなどが明らかとなりました。この可視化技術は、実用的なPEF処理槽の 設計指針を与えてくれます。

    出典:
    ・H. Toyomitsu, T. Yamashita, S. Katsuki, N. Masuda, Y. Shimizu: "Local Thermalization of Conductive Fluids Exposed to Repetitive High-Power Electrical Pulses", Submitted to Journal of Food Engineering on Feb. 10 2021


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